すぐそこに夏空が【中学生日記】

 フェンスに、デッキブラシが立て掛けられている。その向こう側に、体育のハーフパンツに着替えた奈緒の姿があった。

 ヘアゴムを(くわ)えながら、両手で髪をポニーテールの形にまとめ直している。
 テツローの姿に気づき、その顔から曖昧な笑みがこぼれた。

「おぉ、暑いのにご苦労さん」
「本当ょ。ご苦労よ……ね」

 一筋の汗が逆光に輝き、奈緒の頬を伝う。
 アゴの辺りにポチッとニキビが目立つものの、その素肌は唇を這わせたくなるほど美しかった。
 呆けたように、その顔を見つめる。
 
「奈緒、最近……キレイになった?」

 テツローが、そうつぶやいた。

「え! そんな……」

 戸惑いを隠せない奈緒……
 ほんの少し、時間が停まった。
 



「奈緒〜、何やってんのよ〜」

 水泳部の声が、奈緒を現実に引き戻す。
 テツローのひと言に、ついポーとしていた。

「で、何の用だった?」

 照れ隠しが、突慳貪(つっけんどん)な物言いになってしまう。
 アタシ、忙しいのに、という顔だった。