初恋前夜

 いつものように気配を消して体育館に入ると、そそそそそと忍び足で移動し、大道具や小道具が収納された倉庫の前まで来た。
 ちょうどバスケ部の連中がコート狭しと動き回っている。機敏な動きを見せる集団の中でも、とりわけ際立つ存在がいた。
 楓だ。
 スピードスターと呼びたくなるそのボールさばき、足さばきには華がある。 次々と相手をかわし、くぐり抜けるようにしてジグザグと進み、あっという間にゴールを決めた。
 そこでちょうど区切りがついたようで、コートのメンバーと控えだったメン バーが入れ替わった。僕は、ここぞとばかり楓に念を送る。
 さすが持つべきものは十年来の友。あっちもすぐに気づいて、ふらりと倉庫までやってきた。
 楓を中に招き入れ、すぐに扉を閉めた。
「このシチュエーション、女子ならともかく、コウだと全然ドキドキしないな」
 楓が首にかけたタオルで汗をぬぐいながらぼやく。