初恋前夜

 マジで、何を言ってるんだ?
 スパコン並みの情報処理速度で彼女の言葉を整理する。
 僕の書いた脚本が採用されて、みんなが楽しみにしてくれてるってことなのか?
「ごめん、言い過ぎた」
 一穂が急にしおらしい声を出した。黙っていた僕に頭まで下げてくる。
 え、え、え……。
 なぜに?
「誰よりも頑張ってるのはコウなのに。わたし、あんな素敵なヒロイン役、ほんとにちゃんと演じられるか不安でしょうがなくて」
 こんなけなげな彼女、見たことない。
 そもそも一穂に「コウ」と下の名を呼び捨てにされたのも今日が初めてだ。
「コウだって最高の舞台にしなきゃっていうプレッシャー、あるよね」
 あるのかな……。
「でもそういうの、全然顔に出さずにみんなを盛り上げてて」
 そう……なの?