現実感は、あった。
 心地よく鼓膜に届いた天使の声音も、吸い込まれそうな瞳も、その瞳に 映った阿呆面の僕も。逆にあれ以上のリアルはない。
 でも彼女は僕の夢の中の――って、同じ思考に戻ってるし。無限ループだし。
 ぐらぐらと足場が揺れ出す感じがした。
 なんか病んでる。病みまくってる。
 現実での自分の存在に自信が持てなくなったら終わりだろ。
 いや、待てよ。
 これってもしかして『明晰夢(めいせきむ)』ってやつなのか?
 二階まで下りた僕は、階段のすぐ脇にあった男子トイレの個室に身を隠した。ズボンは下ろさずそのまま便器に腰かけると、スマホを起動してググる。

■明晰夢とは?
 自分で夢であると自覚しながら見ている夢のこと。