するとそのとき、声がした。

 ――コウくん。

 コウくん……て?
 この声はゆずき? なんかやけに現実感のある声音だったけど、気のせいか。
 だって、現実世界で僕のことを「コウくん」なんて呼ぶ女子はいないし。
 僕はきっと、まだ頭の中でふたりの物語を進めようとしていたようだ。
 この妄想ボーイめ、想像ばっかしてないでペンキ塗りの手を動かせ、手を。

「コウくん」

 今度は鼓膜にはっきりと届いた。
 振り返ると……、
 制服姿のゆずきが立っていた。