初恋前夜

 放課後、ひとり教室に残っていた僕は、忘れ物を取りに戻ってきたゆずきとばったり会う。そして、何か悩んでいることがあるんじゃないかと、控えめに声を掛けた。
 ――なんで?
 驚くゆずきに僕は、彼女が一瞬だけ見せた悲しげな目が気になっていたのだと伝える。
 ゆずきはそんなことに気づくなんて、と意外そうな顔で僕をじっと見つめた。
 きっと事情は話したくないのだろう。そう悟った僕は、まだ部活動に所属していなかった彼女を演劇部に誘った。
 少し迷っていたけど、雑務くらいなら、と彼女は答えた。
 僕の本心を言えば、本当はゆずきに演じてほしい役があったのだけれど……。
 でも、彼女にはまだ演技経験がないらしく、しかも転校してきて間もなかったから、あまり無理に勧めることもしなかった。
 それから月日が経ち、僕は自分が手掛けた脚本の舞台を成功させ、部員たちから賞賛を浴びた。