僕は愛しいひとの名を呼んだ。
 振り向く彼女のしっとりとした艶のある唇に、潤んだ瞳。
 ふたりして浅瀬の中で向き合う至福のとき。
 ゆずきは上目遣いで静かに僕の言葉を待つ。
 僕は彼女を見つめ、思いきって声を振りしぼった。
「僕は、ゆずきのことが好きだ――」
 ゆずきが頬を赤らめる。
 この光景を、これから先もこの目に永遠に焼きつけておきたい。
 彼女は目を伏せると、胸に手を当て、呼吸を整えた。
「コウくん……わたし、」
 その声はかすかに震えていた。
 周りの景色が視界から消え、彼女だけが見える。
 少しの間をおいて、
「うれしい」
 あたたかな吐息とともに、ゆずきは答えた。