定年間近ののんびりした先生だ。
「おお、遅くなってすまんなぁ。ちょっとこの子が来るのを待っててね。さあ、どうぞ」
 先生は廊下を振り返って手招きした。
 すると女の子が、少し緊張した面持ちで現れる。
「転校生だ。みんな仲よくしてくれ」
 クラスがどよめく。
 男子からは、「わっ! かわいー!」なんていう歓声もちらほら。
 僕は目を見開いた。
 先ほどまで一緒だった、子猫救出作戦の彼女だった。
 彼女は教卓の横に立つと、自己紹介を始めた。
 名を、ゆずきというらしい。
 ゆずき――。
 僕は彼女の名前を心で反芻する。