「どうもありがとうございました」
「なんともなくてよかった」
 僕は照れ隠しに頭をかく。
 彼女は頬にかかった髪を耳にかけ直してほほえんだ。
 そのしぐさにまたドキリとした。
 そこへちょうど、チャイムが鳴り渡った。校舎からだ。
 朝のオリエンテーション開始を告げる合図だ。
「わ、やばっ! 急ごう」
 呼びかけると、彼女が弾んだ声で「はいっ」と応えた。

 女の子とは昇降口で別れ、僕はそのまま自分の教室に直行した。
 静かにうしろのドアを開けて忍び込んだが、教室の中ではみんな席にもつかずにワイワイしゃべっていた。
 よかった、今日はまだ先生が来ていなかった。
 席について呼吸を整える。
 しばらくすると前方のドアが開き、担任が入ってきた。