僕を振り返った女の子は小さく会釈すると、すぐに顔を戻し、
「あの子」
と視線の先を指差した。
 なんだろう。
 女の子の脇まで近寄り、僕も彼女の示す方向を向いて目を凝らす。
 見上げた枝の中ほどになにかが乗っている。
 クッション? それともぬいぐるみか? いや、ちがう。
 丸っこい小さな耳がふたつピンと立ち、続いてくりくりとした瞳が開く。
 それはかわいい声で「ミャァ」と鳴いた。
 縞模様が特徴の小さなキジ猫だ。
「あの猫、どうしたの」
「通りかかったらいまみたいに鳴き声が聞こえて。ずっとあの状態なんです。降りられなくなっちゃったのかな」
 彼女は瞳を潤ませた。ひどく不安げな表情だ。