僕がほんとに好きなのはゆずきだけ。

 スマホのウェブアプリを起動させると、僕は小説エディタを開いた。
 縦書きの原稿用モードに切り替える。
 真っ白な画面の右上にカーソルが点滅している。
『コウ、小説とか書いたら?』
 べつに、楓に勧められたからじゃない。
 僕はいままさに、僕の意志で書こうと思ったんだ。
 ここ最近、頻繁に僕の夢の中に登場する女の子。
 僕が名付けたわけじゃない。彼女は自分からゆずきと名乗った。
 昔観た映画で、仮想現実空間を舞台に人類とコンピュータの戦いを描いたSFアクションシリーズがあった。現実だと思っていた世界はコンピュータが作り出した仮想現実で、本当の現実世界は別にあったというやつだ。ラノベ界隈でも異世界ファンタジーモノではこの映画に影響を受けた設定が腐るほどある。