またしても僕はひどい自己嫌悪に陥る。
 きっとコンプレックスのせいだ。
 一穂とは過去に苦い思い出がある。そのときのことがずっと忘れられずに脳裏にへばりついているのだ。時間を巻き戻せるなら高校入学直後に戻りたい。そしてもう一度やり直してみたい。
 ……。
 ――いや、違う。
 巻き戻したいんじゃない。
 だって巻き戻してもきっと同じ失敗をしでかす気がする。
 あのことを、幸い一穂が表立って誰かに話した様子はなかったが、それはきっと彼女にとっての黒歴史だからだろう。
 一穂のことはもう忘れたんだ。
 そう自分に言い聞かせたじゃないか。
 いや、忘れるどころか、もともと彼女とは何もなかった。何も始まってないし終わってもない。ただの同級生で、たまたま同じ演劇部員として在籍しているんだ。僕は彼女のことなどなんとも思ってない。