「だからさ」
 楓の声からもどかしさがにじむ。
「コウ、小説とか書いたら?」
 扉の閉まった倉庫の外から「おーい、楓どこ行った?」と声がした。さすがにバスケ部員たちも、彼の長い不在を気にし始めたようだ。
「おい楓、戻らなくていいのか」
「行くよ」
 胡坐をかいていた楓はゆっくりとソファから腰を上げた。
「小説書きなよ」
 また同じことを言った。この話題続ける気か?
「共同作業より性に合ってんじゃね? いま一番書きたいことを、自分の思い描く世界を、自分だけで作り上げてみ」
「……」
 僕は返事をしなかった。
 できなかった。