「自分にコミュニケーション能力が乏しいことを」
 ! おまっ――。
 さすがにキレるぞおい。そう思ったが、楓はふだんの話し方に戻して続けた。
「コウはひとのことよく見てるしいろいろ考えてるし、言葉もモノも俺より全然詳しいし、教養もあるとは思うんだよ。でもさ――」
 きた。よくあるやつ。
 日本語文脈は「でも」のあとが重要だ。
 今回はフォローしておいてからグサッと刺すやつか。
「おまえ、自分の思い、ここにためすぎなんだって」
 楓は親指を立てて自分の胸をつついた。
「インプットとアウトプットのバランス考えてみ」
「バランスって……」
「演じられない脚本だけじゃだんだん悶々としてくるだろ」
「選ばれなかったんだからしょうがないじゃん」
 落ちたんだから、と言わなかったのはちっぽけなプライドが顔を出したからだろう。