「それでは審査員の皆さん、お手元の投票用紙に選んだ脚本のタイトルをお書きください」
 まっさきに記入したのは一穂だ。彼女は書き終わるなり用紙を四つ折りにした。
 少し間をおいてからほかの四名もペンを執る。
 全員が記載し終わったところで司会の女子がそれぞれの用紙を順に集めて回った。
 部の慣例で、結果はすぐに発表される。どの審査員がだれに投票したのかは明かされず、選評も次回の集まりのときに顧問からまとめて伝えられる。
 僕はなるべく表情を変えないよう努めた。
 目を閉じれば祈っているように見えるだろうから、目は開いている。
 うつむいたり天を仰いだりしたら祈っているように見えるだろうから、正面を見ている。
 手を合わせたり拳を合わせたりしたら祈っているように見えるだろうから、手は開いたまま、自然な形で体育座りの膝の上に置いている。
 歯を食いしばったり口を固く閉じたりしたら祈っているように見えるだろうから、少し開いた状態でいる。
 ――って、僕はいったい誰を意識しまくってるんだよ!