同級生の一穂(いちほ)だ。
 黒髪のショートで色白の肌。
 ぱっちりとした目に長いまつげ、そしてきりりとした眉。
 一穂は一年生の頃からヒロインを演じることが多かった。顧問や先輩たちからの信頼は厚く、後輩からも慕われている。さらに生徒会役員でもある。
 容姿端麗、頭脳明晰、演技が達者で人望も厚い。
 そんな完璧女子、実在するわけないだろ!(怒)と毒づきたくもなる、演劇部の、いや、僕らの高校のマドンナ的存在。
 彼女は涼しげな顔で机の上に並んだ台本をぺらぺらとめくっていた。
 あれはどっちだ?
 もう、決めているのだろうか。
 一方の顧問や先輩たちは口を真一文字に結んでいたり、目を閉じて思案したり、タイムアップギリギリまで悩もうとしているようだ。
 そんな長机の審査役を、床に座った一、二年生たちが見守る。