初恋前夜

 この春から部員になった彼女は、雑務をこなすマネージャーのような立ち回りで部には貢献してくれているが、役者をやろうとはしなかった。
「僕はね、舞台で演じるゆずのこと、いつも想像してるんだ。こんなふうにしゃべってくれたらいいなっていう表情とか、しぐさとか」
 僕は呼吸を整えた。
「ゆずならきっと、いい役者になれるだろうし、僕のイメージ軽く越えてくれると思う」
「そんなこと」
 ゆずきの頬に赤みが差す。
「いつか、僕の物語のヒロインを演じてほしいな」
 彼女はもじもじしながら答えあぐねていたが、その顔はうれしそうに見えた。
 よし、決めた。
 いまここで言おう。
 高架のほうから嬌声が聞こえた。でもたぶん、彼らは川の中の僕たちに気づいていない。いや、たとえ気づいてたって、そんなことはもう気にしない。