初恋前夜

「ええっとね、コウくんといると安心するってこと」
「そうなの?」
「うん。あ、あ、もちろんわたしもだけどね、みんなそう言ってるよ」
 彼女は赤くなったまま慌てて言い訳のように付け足した。
「うれしいな」
 僕は心から笑いかけた。
「僕もゆずきと一緒にいるとすごく楽しい」
「ほんとに?」
 彼女の顔にぱっと花が咲く。
「ほんと。でも……」
「でも?」
「欲を言うなら――今度の舞台では、僕の作品のヒロインをゆずきに演じてほしいって思ってる」
「えー、わたし? そんなの無理だよ、迷惑かけちゃうもん」
 彼女が身を縮めて謙遜する。