初恋前夜

 抱きとめられた彼女は、僕にもたれかかりながら胸を撫で下ろした。
「浅瀬なのに意外と流れ速くて足取られちゃった」
「大丈夫?」
「うん。助けてくれてありがと」
 ゆずきはうつむきがちにつぶやいた。
 僕はつかんでいた彼女の腕を離す。
「いつも頼もしいよね、コウくんて」
 ゆずきの唇からしっとりとした吐息が漏れた。
「僕が?」
「今回の舞台だって、コウくんの脚本がすごくよくて、みんな演じるの楽しそうだったし」
「ああ、舞台の話か」
「あ、ううん、それだけじゃなくて。なんてゆーのかな、えーと……」
 ゆずきの顔がいつになく上気する。
「どうしたの?」