初恋前夜

 ゆずきは鳩を出すマジシャンのように、いきなりマシュマロを出現させた。
 手にした串にちょこんと刺さったそれは、こんがりと濃い目の焼き色がついていて香ばしい。
「わわ、すごいね、いきなり」
「ささ、食べてみて」
 彼女は気がはやるのか、串の先端を僕の口元に近づける。
 これは見方を変えれば、よく結婚式で新婦が新郎にスプーンに載せたカットケーキ(それは大抵、とてもひと口では収まりきらない大きさなのだが)を食べさせる、あの『ファーストバイト』を連想させないこともない。
 やばっ。
 まだゆずきに告白する前なのに。いいんだろうか、こんなシチュエーション。
 はい、ああーん。
 とは言ってもらえなかったが、僕は幸せそうな阿呆面で口を開いた。
 さくっ、ふわっ、とろっ、しゅわー。
 すぐに溶けてなくなる。