バレンタインデーの朝 女子社員は 

「これ。女子みんなからです。」

と言って 男性社員に チョコを配っていた。


「ありがとう。」と受け取る俺に


「女子は ズルいんだよなぁ…チョコは みんなから 1つだけど。お返しは 1人ずつ 貰うからね。」

俺の教育係だった 主任が 苦笑する。


「まあ… でも 女子は 人数が少ないから。仕方ないですね。」

俺は 分担して チョコを配る女子を 目で追う。


たとえ 偶然でもいいから

早苗から 渡されたかった。


俺に チョコを配ったのは

子持ちの ベテラン社員だった。


その日の夕方 営業から戻ると 

俺は 加藤 千夏に 呼び止められる。


「あの… 寺内さん。」

「んっ?何か?」

「これ。私の気持ちです。」

「俺に?」

「はい…」

「ありがとう。」


綺麗に ラッピングされた 包みを 受取り。

俺は かなり動揺していた。


早苗なら よかったのに…


受け取っていいのか 悪いのか。

返すのも 大人気ないし。


千夏が どこまで本気が わからないのに。

真剣に 受け止め過ぎることもない…


俺は 千夏を 何とも思っていなかったから。


むしろ 馴れ馴れしく 近付かれ

迷惑に感じることも あったのに。