タクシーに乗って 行先を告げる早苗。

「今も 笹塚に住んでるの?」

「はい。ずっと 同じ所です。」

「今 何してるの?」

「栄養士をしています。」

「えっ?学校に 行っているんじゃないの?」

「私 短大が栄養科で。栄養士の資格はあるんです。でも 管理栄養士の試験 受けたいから。栄養士としての実務が 必要で。」

「そうなんだ。岩瀬さん 学校に行くから 会社辞めたって 言われているよ。」

「フフフ。小学校で働いているんです。栄養士として。」

「そうなの?学校違いだね。それは…」


タクシーの中で 話しながら。

早苗の表情は だんだん 柔らかくなっていた。


「急に 辞めちゃって。連絡くらい してくれても よかったのに。」

俺は まだ女々しく 他力本願なことを言う。

「寺内さんに 迷惑かと思ったから。」

「迷惑?まさか。すごく 心配してたのに。」

「ごめんなさい… でも 川村さんのことが あったから。何か 言い難くて。」

「川村のことが 原因で 辞めたの?」

「それも 少しはあったけど… 今の小学校に ちょうど欠員が出て。声をかけてもらえたから。」

「そうだったんだ。今日は もう 仕事はいいの?」

「はい。週に一回 予備校に通っていて。今日は 学校の日なので。」


早苗のアパートで タクシーを降りる頃には

さっきの豪雨は すっかり止んでいた。