川村が 異動してからも

早苗は 淡々と 仕事をしていた。


ちょうど 新入社員が入ってきて

総務課は 忙しい時期だったから。


俺は いつも そっと早苗を 眺めていたけど。

そこに 変わった気配を 感じることは なかった。


その頃 早苗は もう 決心していたのに…


6月に入って 早苗の姿が 見えなくなって。

俺は 他の同僚から 早苗の退職を聞く。


「最近 岩瀬さん 見ないけど。病気なのかな?」

「寺内さん 知らないんですか?岩瀬さん 退職したんですよ。」

「えっ?退職?いつ?」

「5月いっぱいで 辞めたみたいです。何でも 秋から 学校に行くとかって話しですよ。」

「へぇ。知らなかったよ。」


俺は 頭を殴られたような ショックで。

貼り付けたような 笑顔で 席を立つ。


早苗は どうして俺に 

何も言って くれなかったのか。


あのクリスマスの夜 俺を呼び出したのは

やっぱり 俺が 川村の友達だったから。


もしかして 早苗が 

俺に好意を 持っているかもしれないとか。

俺の勝手な 思い込みは 見事に打ち砕かれた。


もう 早苗を 見ることも できない…


早苗が 川村と 付き合い始めた時よりも

俺は ずっと大きな 衝撃を受けていた。


全部 自分の不甲斐なさが 

招いたことだけど。


どうして こんなことに なってしまったのか。


早苗が 俺に 何も言わずに 辞めたから

俺は 早苗に 連絡をすることも できなかった。


きっと 早苗は もう俺と

関わりたくないのだろう。