あの時 俺は どうして早苗を 

抱き締めて あげなかったのだろう。


早苗が 俺を 呼んだことを 

きちんと 受け止めればよかった。


川村を 思いやるふりで 弱い自分を 隠して。


早苗は 俺を求めたのに…


正当な理屈なんか 言わなくても。

ただ ふわりと 抱き締めて。

『好きだよ。』

って一言 言えばよかった。


ずっと 早苗のことが 好きだったのだから。


『川村と別れて 俺と 付き合ってほしい。』

そう言って 早苗の目を 

見つめればよかった。


もし 早苗が それで苦しむなら

俺と一緒に 乗り越えようって 言えばよかった。


早苗の姿が 見えなくなっても

俺は 追い駆けることも できずに。


ぼんやりと 立ち止って 

言えなかった言葉を 胸で繰り返す。


卑怯で 情けない自分に ウンザリして

どれほど 後悔しても もう遅い…