「川村と よく話し合ってみなよ。2人のことなんだから。どうして 岩瀬さんが そういう気持ちに なれないのか。ちゃんと 川村に 伝えないと。」

「そうですよね…」

「俺は 男だから 川村の気持ちも わかるけどねぇ…」

そう言って 俺が 笑うと 早苗も 少し微笑んだ。


「本当に すみません。こんな時間に 急に呼び出して。」

「俺のことは 気にしないで。それより 岩瀬さん 1人で帰れる?」

「はい。大丈夫です。まだ 早いから。」


俺が来た時 早苗は 突き詰めた表情だったけど。

少し 柔らかくなった笑顔に 俺は 安心した。


カフェを出る時 レジの横に

小さな 赤い長靴が 売っていて。


早苗の目が 一瞬 そこに 留まった。


俺は それを手に取ると レジに運ぶ。


「メリークリスマス。」

店を出て 立ち止っている早苗の手に

俺は 小さな長靴を 乗せた。


「寺内さん… ありがとうございます。」


早苗の 真っ直ぐな瞳に 

俺は 射すくめられて。

何も言えずに 頷く。


早苗の 綺麗な目に 涙が盛り上がって。

俺は 戸惑って 目を逸らしてしまう。


「気をつけてね。」

地下鉄の駅に 吸い込まれる早苗を

見えなくなるまで 追いながら。