俺の願いは 叶うわけもなく。

あっという間に タクシーは 

俺のアパートに 到着して。


「すみません。少し 待っていてもらえますか?」

俺が 運転手さんに 声をかけると

早苗は 俺と一緒に 川村を

部屋の前まで 運んでくれた。


「寺内さん。本当に ありがとうございます。おやすみなさい。」

「こちらこそ。気をつけてね。おやすみ。」


こんな形でも  ” おやすみ ” を 交わすことは

俺を 甘い気持ちに させてくれる。


意識のない 川村を 引き摺って 部屋に入れて。

俺は 早苗を思って ため息をついた。



眠ったままの 川村を 部屋に転がして。

上着とズボンを 脱がせてあげて。


恋敵なのに 何故 川村を憎めないのか…


俺が ベッドに入って まもなく

早苗から ラインが届く。


『色々 ありがとうございました。今 家に着きました。』

『こちらこそ お疲れ様。朝起きたら 川村を 叱っておくよ。』


川村が 苦労して聞き出した 早苗の連絡先。

早苗は 帰りのタクシーの中で 

自分から 俺に 教えてくれた。


自分の彼氏が 迷惑をかけたから?

そう思うと 落ち込むけれど…


『タクシー代 すみませんでした。』

俺は 自分がタクシーを 降りる時

料金を 多めに 運転手に渡しておいた。


『大丈夫だよ。後で 川村に 請求するから。』


俺と早苗の 繋がりは 川村だから。


せっかく 早苗とラインをしているのに

俺は 川村のことばかり 言ってしまう。


でも 他に どうすることも できなくて…


川村は 俺の友人で 早苗は 川村の彼女。

その関係が 崩れたら 

俺と早苗に 接点は なくなるから。


『いつも 川村さん あんなに酔わないのに。』

『そうだよね。俺と飲む時も こんなに 酔ったこと ないよ。』

『どうしたのかな…』

『気になる?』

『そういう訳じゃないけど。』

『きっと 疲れていたんだよ。大丈夫だよ。』

『はい。ありがとうございます。』

『うん。じゃ おやすみ。』

『おやすみなさい。』


もう一度 早苗と  ” おやすみ ” ができて

俺は 甘い気持ちのまま 眠りに落ちていった。