「こんにちは」

急な挨拶を受け振り向いた顔は驚いているようで、私は自分がしたことに急に恥ずかしさを感じてうつむいた。

次の瞬間、頭上から聞こえた「こんにちは」と言う声とクスッという笑い声に私は驚いて顔をあげた。

今、笑った・・・?

その笑顔を確かめる隙もなく、
彼は前を向いてしまい、高い位置にある表情は見えなくなってしまった。

ピーンと到着の合図音が鳴り、階数表示に目を移すと彼が降りる9階に着いたようだ。

私は目の前の扉が閉まりきるまで、スッと伸びたまっすぐに歩いていく背中を見つめていた。

それからも無愛想な職員とタイミングの一致といえるような出来事は続いた。

自動販売機の前や廊下や階段や教室の前等、様々なところで会った。

登校時にこれだけ連続で姿をみていると、さすがに向こうも覚えたのか、階段ですれ違い際にはほぼ同時に会釈していた。

私は下りで彼は上ってきているところだった。

特に会話をするわけではなかったけれど、知らないうちに無愛想な印象がちょっとずつ変化していっていることに気がつくのにそんなに時間はかからなかった。