「旧校舎って……急になんか本格的だね。いかにも出そうって感じ」


「でも職員室からは遠いし、部活で使われる教室もないから隠れるにはもってこいじゃね?」




旧校舎は、本校舎と渡り廊下で繋がれた古い校舎。

渡り廊下は一本しかないので、そこだけ見張っていれば日直の先生にもすぐに気づける。




こっちの校舎はパソコン室とか、機材を置いておく系の教室が多いのであまり人が立ち入らない。

私たちが今いるのは、文化祭の準備などをするための教室。

カラフルな紙の破片とか、飾り用のお花とか、ペンキの跡とか新聞紙とかが無造作に落ちている。





「なぁ、アオイ。俺たちが仲良くなってからもう一年経つんだぜ。なんか短いよな」





二人きりの教室。

ロッカー横の隅っこで、カーテン裏に体育座りをしながらユウキが話し始めた。




「そうだね。ナツキとユウキは中学から一緒なんでしょ?ずっと仲良しなの?」




「んー、実を言うと中学の時はあんま話したことなかったんだ。なんというか、ナツキは今みたいなタイプじゃなかったというか」



ユウキはぽりぽりと頬をかく。




「なんか、地味?というか。メガネで成績が良くて、そんでもって掃除サボってる男子に注意するような、気の強い地味子ってイメージだったな」




たしかに、いまのナツキとは随分イメージが違う。


真面目で気の強いところは今も一緒かもしれないけど、

私の知ってるナツキは美人で、読者モデルみたいにキラキラしたオーラを纏ってる憧れの友達だ。

地味なナツキなんて想像できない。



地味なのはむしろ、私の方だ。


特にこれといった特徴もない、

勉強も運動もそこそこしかできなくて、

とびきり美人というわけでもない女子高生。



でも、中学まではナツキもそんなイメージだったんだ。

きっと、ナツキは、努力したんだ。

そう思うと、勝手にナツキに憧れて羨んでいた自分が情けなく思えてきた。




「だからさ、高校デビューしたあいつ見てびっくりしたんだよ。しかも結構ノリが合うし頼りになるしさ、中学ん時より付き合いやすくて」




きっと、ユウキの隣にふさわしいのはナツキみたいな努力家の女の子なんだ。

私みたいな流されてばっかで何もしないやつは、ユウキの隣には……





「でも、アオイのおかげかもな」



「え?」





心臓が跳ねる。

突然話題が私に変わって、くすぐったいような期待するような気持ちになる。




「一年のはじめの頃さ、俺とアオイ隣の席で良く話すようになったじゃん。
そんでアオイとナツキが同じ部活だったから、ナツキがアオイを迎えにきた時に俺とも喋ったりして……それで三人で仲良くなったじゃん?」




ユウキの声色はすごく優しくて、

心が溶けてしまいそうなほど、温かな熱を帯びている。





「だからお前のおかげなんだよ。お前が三人を結んだんだ」






ユウキの顔が少し赤いように見えたのは、夕日のせいじゃないように思えた。

それが私に対する愛情じゃなくて、友情なんだってわかってても、鼓動が早くなってしまう。






「なんて。なんか照れくせぇこと言っちまったな。今のナシな」





ユウキはずるい。

いうだけ言ってかき乱して。



でも、そういうところが、私は………………………………………………