朝、電車に乗るのも気が重かった。

あの男とはもう完全に関係がなくなったものだと思い込んでいた。

誰にも言えない。
もちろん親にも言えない。

まだどこかで追ってくるんだろうか。

常に誰かに見られてるような気がして学校まで行くのも苦痛だ。
また会ってしまった時、私はどうするんだろう。

全身力が入らない。

とりあえず夏休みまでの1週間だけ乗り切ろう。
トボトボと駅を出てバス停に向かう。

「おい」

急に肩にドスンと重さがかかった。
背筋が凍る。

「おはよ」

その声の主が私の顔を覗き込む。
目が合った。

蓮だった。

「なんだ」

急に背中に体温が戻ってくる。

「どうした?」

蓮は駐輪場に向かうようだ。

「いや」
「なんでそんな顔してんの」

同じ高校の生徒が通り過ぎていく。

私が黙っていると蓮が突然私の左手を手に取った。

「よし、今日は自転車で行こう。」
「は?私、自転車ないけど」
「後ろに乗ればいいじゃん」

あっけらかんとした顔。

「ちょっと待って」

そういう私を無視して蓮は力強く引っ張って行く。