明日 切られる大きな木を
校舎の窓から見ていた幽霊

幽霊の生きていた頃を知らない
私はあなたが誰なのか知らない

それでも 遠くにさよならした春
初恋の人が死んだのをおぼえている

あの窓から転げ落ちた。

その頃はまだ
豊かに生い茂っていた木の葉っぱたちが
私の初恋を受けとめて

恋は、次の年に死んだ。

恋をしていると告げられず
私の夢さえ知らず
決して叶わぬ片思いは
窓から落ちて 死んだ

幽霊は私と目が合うと 何かを囁いた
声が聞こえるはずもない距離から
こちらに向かって解き放った

――巡、巡、巡、巡ごめん。

って聞こえた気がしたけれど
たぶん私 聞き間違ったんだ

うわごとのように
意味のもたない呪いから
解き放たれたら
たしかにある余韻を噛みしめる

久しぶりに吹き荒ぶ 凶暴な北風が
白鳥の群れと共に通り過ぎて 今年も
私の短い髪をさらい
制服を連れ去る

明日 切られるはずの木は
一年振りの北風に奪われて 殺された