そして朝を迎えた。



私が目が覚めたのと同時に扉が開いた。



「お嬢、もう起きてたのか…珍しいこともるもんだな。」



秋人はバカにしたように笑う。



「秋人に起こされなくても早く起きることぐらいできるわよ!
ていうか、いつ帰ってきたのよ。
主を置いて帰って、帰りも遅いし…」



私が膨れると秋人はクスッと笑って私の隣、ベッド上に腰掛ける。



「何、お嬢…1人で寂しかったのか?」



そう言って私の頬に触れ顔を近づける。



「ちょっと、な、何するのよ!
調子に乗らないでよね。別にあんたなんかいなくたって、寂しくなんかないんだから…」



嘘…



寂しかった…



静かな家で、1人なんて。



でも、そんなこと素直に言うなんてできない。



できるはずがない!



この私のプライドが許さないんだから。



つい意地を張ってしまう自分に嫌になりつつも、仕方がないと認める。



「相変わらず素直じゃねぇな〜
そんなんじゃ例の男も落とせないぜ」



そう言って秋人はニヤリと笑った。



「バカ秋人。
もうさっさと出てってよ!着替えるから。」



私は秋人の背中を押してドアへと誘導する。



「はいはい、出ていきますよー」



パタンと扉が閉まると再び静けさが蘇る。



不思議。



ついさっきまであんなにうるさい人がいたのに。



私はきそんなことを考えなが着替えて支度をした。




準備が終わり、部屋から出て、私は階段を降りる。



「お母様、おはようございます。」



「アヤメ、おはよう。
昨日の学校はどうだった?」



一階へ行くとお母様が仕事の支度をしていた。



お父様はもう仕事へ行ったのだろう。



「絢斗君、見つけられた。」



「まぁ!よかったじゃないの、これでお父さんもうるさく言わないんじゃない??
とりあえず、学校生活を楽しみなさい。」




お母様はそう言って仕事へ向かってしまった。


「おっ、準備出来たのか。
ほらよ、朝食。」



お母様と入れ替わるようにして秋人が出てくる。



「今日は拓哉(タクヤ)の料理じゃないのね。」



拓哉とは、花園家の料理人だ。



「あぁ、あいつ今日から旅行に行くらしいからな。」



旅行か…



私もどこか出かけたいな。



なんて、だめね。



今は綾斗君よ!



「それにしても、久しぶりに秋人のご飯を食べるわね〜。
目玉焼きにトースト…普通だ。」



私は少し嬉しくて笑う。



「バカにしてんのかぁ」



秋人はカチンときたのか、私を睨みつける。



「そうじゃなくて、いい意味よ!
秋人の味がする。拓哉の料理ももちろん美味しいけれど、秋人のは特別美味しいわ」



私はニコリと微笑む。



「////
な、なんだよ急に…」



秋人は顔を赤らめる。



なぜ?




思ったことを口にしただけなのに??



「まぁほら、さっさと食って学校行くぞ。」



「はーい。」



そんな会話をしているうちに食べ終わった。




直接手紙を渡すのは恥ずかしいし…早めに行って下駄箱か机の中にでも入れよう。




そう思って秋人に声をかける。



「秋人、今日は私1人で早めに学校に行くわ!」



「何かあんのか?」


秋人が、不思議そうに尋ねる。



綾斗君に手紙でも渡そうと思って!



「……まぁそういうことなら…。」



いそして私は家を先に出た。









学校へ着くと、まだ時間が早いからか人数が少なかった。



この隙に…と思いこっそりと机の中にあの手紙をいれた。



あとは放課後になるのを待つだけ。



私は余った時間、読書をすることにした。



それはもちろん、例の小説だ。








しばらくすると、綾斗君が登校してきた。



き、気づいてくれるかな?



私はこっそりと綾斗君を盗み見る。



しかし、綾斗君は気づかないまま教材を机の中へしまってしまった。



そ、そんなぁぁぁぁぁ



あれじゃあきっと手紙くしゃくしゃになってるわ……



私は真っ青になる。



すると、



「どうしたの?花園さん、て顔色良くないけど……」



突然綾斗君に声をかけられた。



あの時と変わらない、優しい言葉。



「あ、綾斗君……
え、えっと大丈夫、気にしないで!
でも、心配してくれてありがとう。」



「そう?それならいいけど…
何かあったら言ってね。」



そう言って綾斗君はニコリと笑う。



きゃぁぁぁぁぁぁ、笑顔が眩しいよぉぉぉ!!



あんな笑顔向けられたら死んじゃう!!



あの少しう会話だけで嬉しい。



でも、手紙…



どうしよう、他の日でも…



そんなことをずっと考えていたらあっという間に放課後になってしまった。



見てもらえてないと思うけど、それでも一応呼び出したわけだし…



そう思って私は来るはずのない綾斗君を校舎裏で待っていた。



10分が計画したけど、やはり来ない。



当然よね。



校内も静かになってきている。



きっとみんな帰宅したのだろう。



一応秋人には先に帰っててって伝えたけど、さすがに帰りが遅いと後々怒りるだろうし…



でもまだ10分しか経ってないからまだここにいてもいいよね!



なんて考えている自分がバカみたいだ。



綾斗君はあの手紙を見てないんだからなここに来るはずない。



そう分かっているのに、もしかしたら来るかもしれない希望を捨てきれない。












そろそろ暗くなってきたな…


空も分厚い雲がひ満遍な広がっている。


風も少しづつ強くなってきて、木々がザワザワと揺れている。



雨、降ってきそう…



私は仕方がなく帰ることにした。



校門を出てすぐ、雨が降ってきた。



最初は少量だったけれど、段々強くなってくる。



こんな天気になるなら帰ればよかった…



私のバカ。



私はカバンを頭に乗せて走る。



「花園さん?」



急いで走っていると不意に、後ろから声をかけられた。



その声は……



「あ、綾斗君…!?
ど、てんどうしてこんな…」



「俺は買い物…
今帰り?
ずっと何してたの…?ていうかそのままじゃ濡れちゃうし、ほらっ、俺の傘入って。」



綾斗君はそういうなり私を引き寄せる。



「わっ」



こ、こ、これって相合傘ァァァァ



夢にも見なかった……



綾斗君とて相合傘なんて…幸せすぎる…



待っててよかった、雨降ってよかった、綾斗君に会えてよかった!



そう思ってつい口元が緩む。



「びしょ濡じゃないか、家この近くだら寄ってきなよ。雨も強いし。」



「えっ!?で、でも…」



私が躊躇ていると「遠慮しないで」と言って教室と同じ笑顔を向けられ、ついつい頷いてしまった。




綾斗君の家は本当に近くですぐに着いてしまった。



ここが、綾斗君の家…



「ほら、上がって。」



私は言葉に従って日比野家へ上がる。



「ご両親はいらっしゃはないの?」



「ん?あぁ、海外で仕事しててさ。」



じゃ、じゃあ…私今綾斗君の家で綾斗君と2人きり!?



そう思った途端、心臓が速く脈打つ。



「シャワー浴びる?」



「い、いえ…大丈夫です。
えっと、なにか拭くものがあればそれで…」



「…わかった。
そこの部屋、俺の部屋だからそこでちょっとまっててね。」



そう言っ綾斗君はタッタッタッとは他の部屋入っていく。



ここが、綾斗君の部屋。



私はそーっと部屋に入る。



辺りを見回すと部屋は綺麗に整頓れていた。


す、すごい…私すぐ散らかしちゃうのに。



って関心してるんじゃなくて、部屋で待っててって言われたから部屋の中に入らないとだよね!



…部屋のどこにいよう。


このままドアの前で立っていようかな。



ーそうしよう。



ちょっと経つと、綾斗君がタオルを持ってきた。



「ほら、これで拭いて。
それと…はい、この服に着替えな。
そのままじゃ風邪ひいちゃうだろ?」



そう言って私はタオルとTシャツを差し出された。



「えぇ!
タオルだけでいいよ…」



「いいから!
もし花園さんが風邪でも引いたら俺のせいみたいになっちゃうから、ほら!」



ズイっとTシャツをし渡され、仕方なく受け取る。



「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて。」



私はかタオルで髪を拭き、首元、腕、足と出てい所から拭いていく。



「あっ、ごめん!
俺がいた着替えられないよね。」



綾斗君は慌ててそう言って部屋から出てく。



「着替え終わったらえてね。」




……あの時と本当に変わらない、優しい人だ。



着替え終わったら10年前の話をようかな…



その後、婚約…は早いわ?!



うーん、告白?



それもて早い?いや、そんなことはないはず…


「着替え、終わりました。」



「じゃあ入るね。
…なんか、変な感じだね。
俺の服を花園さんが着てるなんて」



「アヤメ…、アヤメって呼んでください。」



「えっ、い、いいの?
女の子って彼氏以外からは苗字で呼ぶのかと…」



「ふふっ、確かにそういう人もいるかもしれませんが私は気にしなくていいですよ?」



綾斗君、かわいいな。



「そ、そう?
昨日アヤメちゃんのこと呼んでた男の子がいたからつい、彼氏さんかと思って…」



「え?!」



それって、秋人のこと?




秋人しかいないわよね。



「あれは彼氏とかじゃなくて、ただの幼馴染よ!」



もぅ秋人には学校で話しかけるのは辞めてもらおう。



綾斗君に勘違いされてるなんて…



「なんだ、よかった」


「よかった?」



「い、いや、ごめん、忘れて!」



綾斗君は焦っている様だった。



「雨、やみそうにないね…」


絢斗君は話を逸らすように窓の前に立ち、外を見る。



「そ、そうだね」



何を話せばいいんだろう、男の人の家なんて初めてでドキドキする…



「あの、絢斗君。
ちょっとお話ししたいんだけど…いいかな?」



10年前の話でもしよう!きっと覚えていないかもしれないけど…それでもいいから。



「10年前に、家に帽子飛んできたことあったでしょ?その時のこと、覚えてる?」



「10年前……帽子…
あぁっ!覚えてる覚えてる。
もしかして…あの時の泣いてた子?」



「うん!覚えててくれたんだ…嬉しい。」



「あれ、アヤメちゃんだったんだ…
あの時の俺名前聞いてなかったよね。」



「うん、でも絢斗って名前の人をずっと探してて、高校で会えたとき、すごく嬉しかった!!」



「アヤメちゃん…
俺も、アヤメちゃんに会えて嬉しいよ。」



「そうそう、アヤメちゃんってもしかしてあの有名な花園家の子?
苗字を聞いた時からちょっと気になってて…」



「ゆ、有名って…まぁ、そうだけど。」



「きっと愛されて育ったんだね…」







「愛されて?」



「ご、ごめん、関係ないよね。」



どうしたんだろ、急に静かになった…



「わ、私そろそろ帰るね、あんまり長居するのも悪いし…」



「えっ!でも、まだ雨強いしやめた方が…
もしかして…俺といるの嫌?
もし帰りたかったらそこの傘使ってね、雨に濡れると良くないから。」


「い、嫌じゃない!
ただ、迷惑かなって…
でも、ありがとうじゃあ帰るときは使わせてもらうね。」



私はそう言ってもう少しここにいることにした。



でも、雨が弱くなることはなく……



「全然弱くならないね…
泊まって行く?」



「えっ!そ、そ、それはさすがに」


絢斗君と一夜を共にするなんて…


恥ずかしくて無理!って私ってば何考えてるんだろう…



再び静まり返る。



話すことがないよ…



あんなに2人きりになるのを待ちわびてたのに、いざとなると…



「わ、私ちょっとお手洗いに…」



「あ、あぁ、そこの廊下左に曲がったとこだよ。」



「ありがとう」



私は一旦部屋から出る。



「ふぅ…」



今何時だろう、ここにきてから時計見てなかった…



とりあえず私は左に曲がった。



けれど、どこ!?



扉が多い。



意外とこの家広くない?!なんて思ってしまう。



するとピンポーンとチャイムが鳴る音がした。



玄関はちょうど真っ直ぐ先で覗けば見えるところだった。


私はつい誰なのか気になってこっそりとみていた。



絢斗君は玄関へ向かいドアを開ける。



そこには……