ついさっきのこと。私は、暗い裏道を愛しい彼の後ろをついて歩いていた。高校3年生の彼。一年生の私。私は、彼を追ってこの高校に入った。たとえ私に話しかけてくれなくても、たとえ私の方を見てくれなくても、私は幸せだった。
 だって、この世で世界一かっこいい彼の後ろを歩けるのよ。これ以上の幸せってないじゃない。
 ご機嫌の私は、後ろから迫ってくるその影に気づくことはなく、呑気に歩いていた。足音が迫ってきても、小さく咽び泣くような声が聞こえても、私の心に侵入するほどではなかった。




 気がつけば私は、箱の中で横たわっていた。顔の上に窓のある、私の体ぴったりの箱。私は、箱を押し退けようとゆっくりと手を伸ばした。……あれ。手が、箱をすり抜けた。どうしてだろう。と、言うことは、と、私は重い体を起こした。やっぱり、すり抜ける。
 周りを見渡すと、呆れた顔をした人々が私の入っていた箱を見つめていた。唯一泣きそうな顔をしていたのは、私の母だった。私に父と呼べる者はいない。私のお母さんはシングルマザーだ。昔聞いた話では、母は父に捨てられたらしい。ああ、あの顔。見覚えがある。私を嘲笑った私の友人達だ。父親がいないせいで、私の性格はねじ曲がってしまっていると、笑った人間以下の人たちだ。……いや、いいすぎかな。彼女たちは、私を仲間外れにして、4人で遊んでいた。そして、笑っていたのだ。
「何なんだろうね、あの子。」
「何があの子の性格をあんなにしちゃったんだろう。」
そう言って、笑っていた。
……その話は、もういいか。それより、どうしてこんなところにみんな集まっているのかしら。みんな黒い服を着ているし。
 私が振り返ったとき、私はやっと自分に何が起こっているかを理解した。私の閉じ込められていた箱。……ああ、あれは、棺桶だったのね。
つまり、私は死んでしまったのだ。



 私は自分の棺桶の上に腰掛け、私の葬式を眺めていた。どうやら私は、意識した物には触れることができるらしい。なるほど、ポルターガイストはこうやって起きていたのか。けれど、お母さんを怖がらせるのは忍びない。私はやめておこう。
そういえば、あの人がいない。私の愛しい彼が、いない。私の葬式なのに、どうしていないの。
 私は探し回った。葬儀場を飛び出して、彼の家に行って。けれど、彼はいなかった。出かけているのだろう。そうして、やっと見つけた彼は、学校の校庭の影で男の人と不穏な話をしていた。
「本当に大丈夫なんでしょうか。俺達が殺したってバレたら……。」
「大丈夫だって。」
殺した、ころした、コロシタ。俺達って……あなたと……私の彼のこと、なの。嘘よ、嘘、嘘よ。
「大丈夫。ありがとな。あのストーカーを殺してくれて。」
そう言って、彼は笑顔で笑った。あなたが、私の彼が指示をしたの。何を言っているの、私達、あんなに愛し合っていたじゃない。結婚までもうすぐって言ってたじゃない。どう言うこと、どう言うことなの。
……そう、そう。あなた、私を恨んでいたのね?ええ、ええ。分かったわ。でも、私はあなたを愛してる。だから、取り憑いてあげる。これで私はそばにいられる。だから、呪ってあげる。私のせいでうろたえ、恐る彼が、何よりも愛おしい。
 ねえ、あなた。愛しているわ。だから、呪ってあげる。