「うん? そうだね。遅刻はいかんね」

「えっと、それじゃ、お元気で!」

教室めがけて私は駆け出した。

「ぷ、はは! お元気で~」

走り出した私の背後で、先輩がふきだす気配がした。お元気で、って何なの。自分で言っておきながら言葉のチョイスを間違えたと思う。

次の授業は遅刻や課題忘れに厳しい佐土原先生だから、余裕を持って席についておかないといけない。

二宮さん、自分の席に戻ってくれているかな? 

せっかくお弁当作ったのに無駄にしちゃったな。

これから高校生活まだまだ長いのに、こんな調子で私大丈夫なのかなぁ?

走りながら色々な不安と戦っていた私は気づかなかった。

原田先輩が口元に弧を描いて、楽し気にこちらを見ている事に。

「いいじゃん。あの子。うちに向いてそう」

私は自分の事に精一杯で。

きっともう、原田先輩に会う事などないと思っていたんだ。