放課後になった瞬間、瀬戸くんに声をかけられる。


「今からお前、暇か?」


「暇だけど...」


やっと振り絞って出た言葉。


瀬戸くんの記憶は恐怖のイメージしかないからどうしても反射的に身構えてしまう。


「ちょっと付き合ってくんない?」


そう言って私の手を掴んで来た。


私は振り放そうとしたけど彼は男の子だ。


チカラは強くて女の子の私じゃ振り放すことなど出来なかった。


私は大人しく彼について行くことにした。

体育館裏に連れて来られると急に壁ドンをされる。


「え」


咄嗟に声が漏れる。


恐怖が不意に襲いかかってくるみたいに手も足も動かなくなる。


「見ないうちにそんなに可愛くなったなんて驚いたよ」


ただただ恐怖しかない。


漫画で見た時はドキドキしたりワクワクしたりそんな感情のはずだったのに。


瀬戸くんに言われると何かされるんじゃないかって不安になる。


どんどん近づいてくる顔に私は声を一生懸命に出そうとする。


「やめ」


「なに?小さい声なんだから聞こえないよ」


ダメだと諦めていたその時に誰かの声がした。


「やめろよ。また彼女に嫌がることをしてんのか」


そこには瀬戸くんの腕を掴んでいる彼がいた。


彼の声を聞くだけで、顔見るだけで、安心してしまう。


力が抜けたのか私は地面に崩れ落ちる。


「おい、大丈夫か?」


そう言って彼は私を支えてくれた。


「またお前かよ。何回目?」


「彼女近づくなよ。彼女、怯えてるし第一お前じゃ何するか分かんねぇだろ」


「失礼なやつだな。別にいじめてたわけじゃないんだし。それに俺、彼女こと気に入っちゃっただけだし」


何を言っているのか分からない。


ただそれが恐怖なことに変わりはないのだけど。


「やめろよ。お前じゃ彼女とはつり合わない」


瀬戸くんは適当に返事をすると何故か楽しそうにこの場から去っていた。


「立てるか?」


優しいトーンで聞いてくる彼の言葉に心が徐々に落ち着きを取り戻していく。


「うん、ありがとう。立てるよ。また助けられちゃったね」


そう言って立とうとするけどふらついてしまって彼に持たれかかってしまう。


「ご、ごめん」


慌てて離れようとすると肩を寄せてまた同じ体制に戻された。


「いいよ。立てるまでここにいるから」


ああ、さっきの出来事がかき消されるくらいドキドキしてる。


心臓の音や動きが彼に伝わってしまいそうで何も考えられない。


伝わっていないか確認するためにチラチラと彼の顔を見てしまう。


「ん?どうした?」


目が合って視線を外す。


どうしたらいいのか分からないまま時間が過ぎって行った。