昼休みになった時に彼からお昼ご飯に誘われた。
「なーんだ。こっちに来てるなら連絡してくれれば良かったのにな」
「うん、いろいろ忙しくて..ごめんね」
私は彼の顔がまともに見られなかった。
さっきより近づいた距離に緊張していた。
髪は昔から分からず短髪で目はキラキラとして前より背も高くなって声も変わった気がするし何よりかっこよくなった。
そんなこと声に出して言えるわけないけど。
「優実はあんま変わんねぇよな」
「え〜!少しは変わってるよ!たぶん」
少し残念そうな声を出すと冗談だよって言いながら頭を撫でられる。
「へ」
「マヌケな声だな」
私の声を我慢できなかったのか笑いを堪えられていない。
「ちょっと!ひどい!急に頭を撫でるからじゃん!」
髪型を整えるフリをしてさっき触られた頭を撫でる。
なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
「弘くんの方は変わったよね!」
このドキドキを紛らわすために適当に言葉を繋いだ結果がこれだ。
「そうか?そんな変わった気はしねぇんだけど」
「自分では気づかないもんだよ」
私だって本当は雑誌でいま人気の髪型や服装を真似たり色んなことに挑戦してるんだけどな。
あまり上手くいってないと思って悲しくなる。
「外見は変わってない私だけど、料理とか始めてみたりしてるんだよ!今日だって、自分で作ったお弁当なんだから」
自信満々に会話をしてくる私を見て彼は嬉しいそうに笑う。
「へぇ、そうなんだ、じゃあ、味してみていいか?」
「え、いや」
「嫌ならいいけど」
「嫌じゃないよ!」
急が続いた私が必死に出した言葉がこれだった。
私は卵焼きを使っていない箸の反対で持ちながら彼の口に運ぶ。
「なに、食べさせてくれんの?」
「さっさと食べちゃって!」
反射的に答えてしまったけど、意識したらこんなの恥ずかしすぎる。
誰も見ていない屋上だからと言って心臓の鼓動が収まる訳でもない。
なんでこんなことしちゃったの。
それでも彼はしっかりと卵焼きを食べてくれた。
「上手いよ。優実、料理の才能あるな」
「まぁね?ずっと練習してきたわけだし!」
褒められたことが嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
自分でも生きてきてここまで料理して良かったって思う日はないと思う。
それくらい舞い上がっていた。
「んじゃ、お礼」
そう言って差し出して来たのは期間限定の苺みるくだった。
「これ、私、好きだって言ってたっけ?」
「よく飲んでただろ?」
覚えていてくれたんだ。
そんな些細なことでも喜んでしまう自分がいる。
期間限定の苺みるくなんてここら辺じゃもう売ってないはずなのに。
「俺も最近飲んでるんだよ」
その答えに彼が可愛いと思えてつい笑ってしまった。
「笑ってんじゃねぇよ。お前があんまりにも美味しそうに飲むからさ」
理由も可愛くてより一層笑ってしまう。
「おい、そんなに笑ってると返してもらうからな」
「だめー!もう私のだからね」
それから積もる話をしていると昼休みを告げるチャイムが鳴る。
「そろそろ戻るか」
私たちは次の授業に間に合うように屋上を後にする。
それからずっと退屈な授業が続いた。
それでもしっかりと黒板の内容をノートに写す。
後ろの席に彼がいるから少し気にしてしまう。
不真面目だと思われたくないしちゃんとしてる所を見せたい。
そんなことを思っていると隣の瀬戸くんが声をかけてきた。
「雪本、変わったな〜。前はもっと普通だったのにさ」
瀬戸くんの悪い顔を見ていると過去を思い出してしまう。
「また私をいじめるの?」
「さぁ?」
それだけ言うと彼は私のことをじっと見つめていた。
それが怖くて仕方がなかった私はその後、隣の瀬戸くんの顔を見ることが出来なかった。