溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

「ま、出世して面倒な責任を負うなんて向いてないからいいんですけどね。でも今回のフェアは有名ショコラティエと会えて楽しそうなんで、ひとまずがんばります」

小野はけろりとした口調でそう言うと、早速席に戻って資料に目を通し始めた。

「あ、折原さんが玉の輿に乗る経過観察も、がんばります」
「あのね、それって」

梨乃は誤解を解こうと口を開くが、これもまたどうなのだろうとあきらめた。
結局、侑斗との約束は守らなければならないのだ。

そのとき、梨乃のスマホが震え、メッセージの受信を告げた。

「あ……」

メッセージの差出人は、翔矢が通う予備校だった。
冬の特別講習の費用の入金を確認したという内容に、梨乃は現実に引き戻された。
梨乃が侑斗の婚約者の振りをして同居している理由。
それはもちろん梨乃と翔矢が安全に暮らすためだが、翔矢を受験勉強に専念させるためでもある。
早速、侑斗が予備校に費用を入金してくれたのだとわかり、梨乃は自分と侑斗との立場の違いを改めて思い知らされたような気がした。
予備校の費用まで侑斗に出してもらうつもりはなかったが、侑斗は自らの申し出通りに振り込んでくれた。