溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

小野が椅子ごと梨乃に近づき小声でささやいた。
その目は好奇心に満ち、梨乃の答えをわくわくしながら待っている。

「部長と話してる最中、何度も梨乃って呼び捨ててましたよ。きっと折原さんが今回の企画のリーダーだから速攻で社長の奥さんとコンタクトをとったんですよ」
「それは、えっと、違うと思うけど……」

梨乃は否定するが、声は上ずっていて説得力がない。
小野はにやりと笑うと「玉の輿って、本当にあるんですねー」とぽつり。

「玉の輿なんて、ないない、ないから」
「そうかなあ。僕はありだと思ってるんですけど。ほら、今も僕を厳しい目で見てるし」
「え?」

梨乃と小野が揃って視線を向けた先には、木下との話を終えてちょうど立ち上がり、ふたりに鋭い視線を向けている侑斗の姿。
梨乃は思わず視線を逸らし、机に向き直った。

「ほらね。僕が言う通りでしょう? うわ、帰っていく背中もなんだか怖いですねー。この瞬間僕の出世は確実になくなりましたよ。梨乃さんにまとわりつく虫けらとでも思われたに違いない」
「虫けら……」