溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

「あー、悪い。仕事の電話だ」

侑斗は天井を見上げいら立つ声でそう言うと、梨乃を連れてリビングに戻った。

「長くなると思う。先に風呂に入って、待たずに寝てくれていいから」

侑斗はそれまでとは打って変わった落ち着いた声でそう言うと、ローテーブルに置かれていたスマホを手に取った。
すでに表情も仕事モードに切り替わり、甘さのかけらも見当たらない。
梨乃はまだふらつく足をかばうようにソファに腰を下ろした。
今の今まで梨乃を胸に抱き含みのある言葉を連ねていたというのに、電話ひとつであっという間にスイッチが切り替わった。

「もしもし、あ、回答が来たか?」
 
侑斗はスマホを耳に当て、冷静な声で話し始めた。
日付がそろそろ変わる頃だというのに誰と話をしているのだろうと、梨乃はぼんやりと侑斗を見上げた。
梨乃の傍らに立ったまま、時折厳しい声で指示を出している。
その姿は凛々しく、きっぱりとした口調からはいっさいの迷いも感じられない。
巨大ホテル創業家の御曹司。
わかってはいたが、梨乃はそれを実感した。
こうして同じ部屋にいても、侑斗と自分はなんの共通点もないと改めて感じ、胸が痛んだ。