溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

仕事の忙しさに加えて侑斗との新しい生活だ、慣れつつあるとはいってもまだまだ気を張っている部分も多い。

「この先、大丈夫かな」

駅に向かう途中、思わず口を突いて出た梨乃の言葉に、傍らの侑斗は「考えすぎるな」と軽やかな言葉で答えた。
あまりにもあっさりとした声に、梨乃は侑斗の真意がつかめず、さらに気が重くなった。

「悪いな。だけどもう、逃げられないぞ」
「ま、また……冗談ばかり言わないでください」

それこそ自分は侑斗に求められていると誤解しそうな甘い声に、梨乃は唇をかみしめた。



その後家に帰ってからも、これまでになく梨乃は侑斗を意識していた。
同居が始まってから2週間、朝夕の食事をともにし、たまに酒を楽しむ時間があるにはあれど、連日仕事を持ち帰る侑斗は深夜まで仕事を続け、ふたりの関係が変化する気配はなかった。
新しい生活に梨乃が早く慣れるようにと気遣いながらも、互いの生活に必要以上に踏み込まないよう侑斗から一定の線を引かれているように感じていた。
仲のいい同居人、とでもいうような空気の中、梨乃は侑斗との暮らしに馴染んでいったのだが。