溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

「俺も、梨乃を病院に搬送するって救急隊員から伝えられたときの衝撃はまだ覚えてる。だから梨乃に電話をかけるときは今も緊張するし梨乃が出たらホッとする」
「そんな、あの、ごめんなさい」
「謝るな。悪いのは梨乃にケガをさせたあのオトコだ。ぼんやりしていたかもしれないが、梨乃は悪くない」
 
侑斗がさらに強い力で梨乃を抱きしめた。

「今のマンションは駅から徒歩一分で安心だろ」
「はい。暗いどころかにぎやかで明るくて。全然怖くないです」
「そうか」
 
侑斗はそれからしばらくの間、梨乃を安心させるように抱きしめていた。
規則正しい侑斗の鼓動が心地よく、不安混じりの梨乃の心も次第に落ち着いていく。
ふと、侑斗が気に入っているのだろう柑橘系の香りを感じた。
いつ誰が通ってもおかしくない住宅街のど真ん中。
こんな場所で抱きあうなんて恥ずかしすぎる。それでももうしばらくこのままでいたいと、梨乃は侑斗の胸の中でその香りに身を委ねた。

「お腹がいっぱいで眠いのか?」
 
侑斗が優しく体を離し、梨乃の顔を覗き込んだ。

「大丈夫です。まだ眠くないです」