「気を遣ってもらってありがとうございます。心配かけたくないし……でも、明日翔矢が帰ってきたら、ばれて心配するかな」
 
ふと考え込んだ梨乃に、侑斗は変わらず強い口調で言葉を続けた。

「翔矢君には明日話す。そしてふたりともすぐに引っ越しだ」
「だ、だからそれは無理です。それに、すぐにって言われても、どこに引っ越せば……」
 
侑斗に振り回されるのは初めてではないが、今回ばかりはさすがに従うわけにはいかない。
すぐに引っ越しなどできるわけがないのだ。

「侑斗さんの心遣いはありがたいんですけど、引っ越し先を決めるのにも時間がかかりますし」
 
梨乃の言葉に、侑斗は笑みを浮かべた。

「引っ越し先なら決まってる。T高の近くに俺が持ってるマンションがあるから翔矢君にはそこで暮らしてもらう。実家で長く働いている家政婦に通ってもらうし、優秀な家庭教師をつけて受験まで勉強中心の生活だ」
 
決定事項であるかのようにスラスラと話す侑斗に、梨乃は目を見開いた。

「で、折原は、俺が今住んでるマンションで一緒に暮らす。……俺の婚約者として」
 
侑斗は梨乃の手を再び強く握りしめ、にっこりと笑った。