溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

「りーの。ぼんやりしてるけどどうかしたの? この間の強盗事件から落ち着かないね。やっぱりまだ不安……だよね」

声のトーンが変わった千紗が、心配そうに眉を寄せる。

「あ、それは大丈夫。我が家が被害にあったわけじゃないし、犯人は捕まってるから」

侑斗のことを考えてぼんやりしていた梨乃は、慌てて笑顔を作り、ごまかした。
千紗の鋭い指摘通り確かにあの日以来気持ちが揺れて落ち着かない。
まさか千紗がそれに気づいているとは思ってもみなかった。

「また無理して……。梨乃はいつもなんでもないって我慢するから心配なのよ。翔矢君がいるとはいっても用心しなきゃ。なにかあったらすぐに言いなさいよ」
「あ、ありがとう……うん、わかった」

強盗事件の影響で落ち着かないのだと千紗が梨乃を誤解していると気づいたが、曖昧に笑うにとどめた。
もしもその原因が侑斗だと知られれば、とことん追及されると思ったのだ。
梨乃はすでに画面が暗くなった千紗のスマホをチラリと見ながら、自分でも理解できない感情に戸惑っていた。
 
侑斗との写真が拡散して以来、梨乃は興味本位の視線を面倒に感じながら仕事を進めていた。