溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

写真を撮られた日、侑斗はタイミング悪くぶつかった梨乃を気遣い、面談に間に合うよう送ってくれただけだ。
そう、ただそれだけ……。

「梨乃、どうかした?」
「え、あ、なんでもない」

いつの間にかうつむいていた梨乃は慌てて頭をあげた。

「そう? 顔が赤いけど、あまり女の子たちのことは気にしない方がいいわよ。どうせなにもないんでしょう? 梨乃は今、翔矢君の受験で頭がいっぱいだし」
「うん。なにもない」

梨乃は写真を撮られた日の出来事をかいつまんで千紗に話した。
侑斗と特別なあれこれはないと強調したのはもちろんだ。
これまで梨乃の口から侑斗の名前どころか男性との関わりひとつ出たことがないからか、千紗は梨乃の言葉をすんなり信じたようだ。
自分の楽しみは後回しにし、翔矢のために時間もお金も使っている梨乃を一番知っているのも千紗なのだ。

「それに、女の子たちが私に冷たい理由がわかってちょっと落ち着いた。そのうちみんな忘れるだろうしね」

梨乃はそう言って乾いた声で笑うも、梨乃を抱き抱え人だかりの中から連れ出してくれた侑斗の腕の温かさがよみがえり、思わず体が震えた。