溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

「どうしてって。今日から一週間セミスイートでお姫様気分だって電話で言ったでしょう? いつもみたいに仕事のことで頭がいっぱいで聞いてなかったの?」
「は?」

梨乃は目を丸くする。
日程も言わずスマホの向こうで歌いだしたのは母だ。

「母さん……」

くすくす笑い肩を揺らす母を前に、梨乃は肩を落とした。

「藍香ちゃんもこんなところでどうしたの? 久しぶりね。 あ、そういえば来月のコンサートの招待券をありがとう。楽しみにしているのよ」
「とんでもない。先生が来てくださるならいつも以上に頑張っちゃいます」

藍香は梨乃の母の腕に手を置き、はしゃいだ声をあげる。
梨乃の母も一緒に体を揺らし、親しげに藍香と手を取り合う。
天真爛漫で子どものように明るい母には慣れているが、同じようにきゃっきゃと声をあげる藍香の姿に梨乃は驚いた。
世界的に有名な美人ピアニスト。
落ち着いた物腰はさすが名家の生まれと評判で、彼女が演奏する姿は妖精のようだと称されている。
そんな彼女が母を先生と呼び、おまけにコンサートのチケットを贈っているようだ。