溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

侑斗と別れるよう迫ったときとは別人だ。
梨乃は彼女が考えを変え侑斗をあきらめたのだろうかと束の間期待した。

「でもね……そうはいっても」

けれど、続く言葉にそれは甘い考えだったと思い知らされる。

「午前中、もうひとつのホテルを見学させていただいたのよ。藍香さんはホテル専属のドレスデザイナーとの話が盛り上がっていたし、恭介さんの学生時代のご友人がフロントで働いていて懐かしそうにしていたの。会場もお料理も申し分なくて、正直こちらを訪ねる必要はないと思ったんだけど、体面もあるでしょう? 顔を立てるためだけにお邪魔したようなものなのよ。ひととおり見せていただいたらすぐに失礼させていただくし、そのときに恭介さんからお断りの言葉があると思うわ」

にこやかな笑顔から次々飛び出す棘のある言葉に、梨乃は返す言葉が見つからない。
彼女の話しぶりだとすでに白石ホテルは候補から脱落しているようだ。
侑斗があらゆる伝手を使って掴んだ情報では、マスコミに藍香たちの婚約がすっぱ抜かれてすぐに今回の訪問が決まったそうだ。