溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

遠目から見る限り藍香や恭介は楽しそうにしているが、午前中競合しているホテルにも足を運んだと聞き、梨乃はその疲れが判断に影響しないだろうかと気になっている。
相手は白石ホテル同様国内屈指の高級ホテルだ。
どちらが受注してもおかしくはない。
ふたりに付き添っている侑斗の姿を見つめながら、いい結果になるよう改めて梨乃は姿勢を正した。

「午前中、藍香さんはとても楽しそうだったわよ」

低い声に振り返ると、にっこりと笑った村野が立っていた。

「あ……今日はありがとうございます」

梨乃は慌てて頭を下げた。
ふたりがホテルに到着したときに村野の姿を確認していたが、まさかわざわざ声をかけてくるとは思わなかった。
一昨日梨乃を訪ねてきたときの彼女の様子を思い出し、またなにを言われるのだろうと身構える。
けれど、村野はゆったりとした表情で藍香たちを見ながら笑みを深めた。
そこには一昨日浮かべていた梨乃への敵意はない。

「昨日一日で準備が整うなんてさすが白石ホテルね」
「ありがとうございます……」

好戦的な様子などまるでない丁寧な物腰の村野に、梨乃はおずおずと頭を下げた。