溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

思いがけず胸に溢れる切なさをごまかすように、梨乃はぶんぶんと首を横に振った。

「そうか、だったらいいけど。なにかあればすぐに言えよ。今日だって、もう少し早く帰れば俺が対処できたんだけど。まったく」

一度は落ち着いた村野への怒りがよみがえったのか、侑斗は梨乃の手を引いたまま顔を歪めた。
家に入った後も梨乃への謝罪を何度も口にし、本当にどこもケガをしていないかと気遣っている。

「あの、今日はお鍋にしますね。鶏団子の鍋です。しょうがを効かせるので温まりますよ」
 
梨乃は心の奥に生まれた切ない感情はしばらく忘れることにして、侑斗の気持ちをほぐそうと明るい声をあげた。

「鍋か。それは楽しみだけど梨乃も疲れてるだろ。先に風呂でゆっくりしてからでいいぞ」
「平気です。あ、野菜は切ってあるのですぐに作りますね。侑斗さんこそ先にお風呂に入るならどうぞ」

エプロンを身に着け、梨乃は鍋の準備に取り掛かった。
途中、リビングに置いた梨乃のバッグからスマホの着信音が響き、慌ててバッグからスマホを取り出すと母親の名前が画面に出ていた。
そう言えばそろそろピアノの特別レッスンの時期だと思い出す。