溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

人当たりのいい笑みを浮かべるコンシェルジュに、村野はいらだたしげに地団駄を踏んだ。

「も、もうっ。いいわよ、帰る。こうなったら侑斗さんに直接別れるように言うからいいわ。沢渡家の結婚式の件、どうなっても知らないわよ」

プイっと背を向け歩く後ろ姿は見るからに強張っている。
その姿がようやく見えなくなり、どっと疲労感が押し寄せた梨乃の体が揺れた。

「大丈夫ですか? お部屋までお送りします」

とっさにコンシェルジュの手が伸び梨乃の体を支えた。

「すみません、ホッとしたみたいで、大丈夫です。それにわざわざありがとうございました」

腰に回されたコンシェルジュの手から離れ、梨乃は恐縮しながら頭を下げた。

「おい、どうした」

頭を上げようとしたとき、梨乃はいきなり腕を掴まれバランスを崩した。
そして目の前は真っ暗になったかと思うと全身がなにかに包まれた。

「こんなところで、なにかあったのか?」

聞きなれた声に顔を上げると、厳しい表情の侑斗が梨乃を見下ろしている。

「尾崎さん、梨乃になにか?」

梨乃から視線を離さないまま侑斗は口を開いた。