10月下旬、ショコラティエの来日を1週間後に控え、梨乃の仕事はようやくひとつの区切りがついた。
今回のショコラティエの来日の一番の目的は、梨乃たち企画側、そして実際に製作にあたるパティシエやショコラティエとの顔合わせ。
そしてマスコミを集めての記者発表だ。
その会見には社長の諒太も同席する予定で、クリスマスフェアの成功に向けて従業員たちの気合も十分だ。
並行してすすめているバレンタイン企画も問題なく、梨乃は久しぶりに残業せず家路についた。
侑斗との暮らしはとても穏やかで、ふたりで濃密な時間を過ごしながら関係を深めている。
今日も侑斗から早く帰れるとメッセージが入り、だったら鍋にしようと急いで帰ってきたのだが。
「折原さん、少しいいかしら」
梨乃がマンションの玄関ロビーに入ろうとしたとき、突然背後から声をかけられた。
「……え?」
振り返ると、少し離れた場所から村野が梨乃に向かって歩いてくるのが見えた。
石畳のエントランスにヒールの音がかつかつと響いている。

