溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

仕立てのいいパンツスーツに身を包んだ後ろ姿を見つめながら、梨乃は呆然とつぶやいた。

「買いたいのは服じゃなくておろし金とまな板なんだけど」
「くくっ……そうだな。服でも靴でもなく、おろし金とまな板だよな」
「はい……でも」

梨乃は力なくうつむき肩を落とした。

「でも、それもいいです。というか、それくらい自分で買えますから気にしないでください」
「どうした? 彼女の言葉に気を悪くしたのか?」

信号が青に変わり周囲がいっせいに動き出した。
その流れに合わせ、侑斗は梨乃の肩を抱いたまま再び歩き出した。

「面倒なことに巻き込んで悪かったな。今回の結婚式の件が終われば村野さんと会う機会はないから」

とぼとぼついて歩く梨乃を心配するように、侑斗は何度も梨乃の様子を確認する。

「えっと……なんでもないんです。ただ、さっきも言ったけど……人混みに酔ったかも。普段滅多に繁華街にはこないから……」
「ん……だったらいいけど。いや、よくないな。そうだ、すぐそこに昔馴染みの甘味処があるからひとまずそこで休もう」

侑斗は人混みを上手によけながらどんどん歩いていく。